遊ぶ【連載】高齢者施設におもちゃと遊びをお届け!アクティビティ ディレクター活動記

お年寄りの心にそっと寄り添う癒しの人形たち

2019.12.06

人形に触れることで楽しい記憶がよみがえり、笑顔が生まれることも!高齢者におもちゃ・遊びを届ける活動記、第4回。

お年寄りの心にそっと寄り添う癒しの人形たち

これまでご紹介したおもちゃは、どちらかと言えば気持ちをわくわくさせ、アクティブな遊びや動きを促すものでした。
でも、おもちゃの持つ力はそれだけではありません。今回は、お年寄りの心を癒す人形達をご紹介します。

認知機能が低下したお年寄りでも、赤ちゃん人形をあやすことで会話量が増えたり、表情が豊かになったりという効果を見ることがあります。
子育てをしていた頃の忙しくも幸せな感情が呼び起こされ、安らぎや安心感に包まれるからでしょう。
それを「ドールセラピー」「人形療法」と捉えてケアの現場で活用されている例も沢山あります。

その場合に使われる人形は、本当の赤ちゃんと同じようにちょっとリアルな大きさや重さ、感触がある抱き人形が多いかと思います。
ですが今回は、今のお年寄りが子どもの頃もしくは我が子の為に使っていたことがあるようなロングセラーの人形玩具を紹介します。

「おきあがりポロンちゃん」(トイローヤル)

コロンコロン~と綺麗なチャイムの音色がするポロンちゃん。それだけでお年寄りに柔らかな笑顔が広がります。
「懐かしいね~、うちにもあったわよ」
「この音がいいのよね」
記憶や五感を刺激するには、音も大事な要素です。
ポロンちゃんと一緒に自然と身体を揺らしたり、手をたたいたり。
1960年代に流行った梓みちよの“こんにちは、赤ちゃん”を口ずさむ方もいらっしゃいました。(当時のレコードジャケットにはベビーベッドにポロンちゃんが写っています)

「キューピー人形」(オビツ製作所)

やはりこちらも、どこの家庭にもあったと言っていいくらいお馴染みの人形ですね。
裸でいるのは寒かろうと、手作りのお洋服を縫ったり編んだりした思い出を話してくださったおばあちゃん。
「独りぼっちの時は遊び相手になってくれたんだよ」と、まるで懐かしい友達と再会したような表情です。
するといつの間にか人形には興味なさそうなおじいちゃんが、キューピーを背中におぶって、まるで赤ちゃんをあやすように歩きだしたではありませんか!
これにはまわりの利用者さん達も職員さんもびっくり!

照れながらも楽しそうなおじいちゃん。
その姿はなんと「子連れ狼」なんだそうです。「子連れ狼」は、1970年代に映画やドラマにもなって大人気だったマンガです。時代の背景や流行を投影しやすく、童心に帰ってごっこ遊びができるのは、人形玩具ならではですね。

3:「リングドール」(アトリエ浅香)

こちらを紹介したいと思ったひとつのエピソードがあります。
私は高齢者施設でアロマセラピーを用いてお年寄りの手足のケアもしています。
ある80代のおばあちゃん、認知症が進み不穏な症状が以前より増して見られるようになりました。
施術中もなかなか座っていられません。
そこで、なにか手にもって気を紛らわしてくれるものはないだろうかと思い巡らしていた時に、このリングドールにタオルを通して、アロマの香りをちょっと垂らしてみるのはどうだろうと考えました。
おばあちゃんはリングドールのタオル人形を手に取り「かわいいねぇ~こっちを見てるよ」と話しかけながら、落ち着いて施術を受けることができました。
それを見ていた女性職員さんが私のところに来て「その子はなんですか?」と。
「私も欲しいです!どこで買えますか?」
「これなら持ち歩けて利用者さんと会話が弾みそうだし、なによりも私が癒されちゃいます」と言ってくださったのです。

温かい木の温もりと手触り。優しい表情。
施設で働く職員さんこそ、ほっと一息つくことや癒しが必要でなはいかと思います。
利用者さんとリングドールを通してコミュニケーションを図ることができたら、とても心温まる時間と空間が生まれるような気がして嬉しくなりました。

今回ご紹介した人形はほんの一例に過ぎません。
また、施設では多くのお年寄りがいて、なかには「子ども扱いされた」と思われたり、その様子を見たご家族が「情けない」と感じられたりすることがあるかもしれません。
人形を使っていただく際には、ご本人の尊厳や周囲の反応に気を配ることが大事です。
複数の方達で共有することを考えて、衛生面においても気を付けたいですね。

さぁ、今日はどの子を連れておじいちゃん、おばあちゃん達に会いに行こうかな。

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小平 有紀
執筆者アクティビティディレクター、アロマセラピスト、おもちゃコンサルタント
小平 有紀
フリーのアクティビティ ディレクター。介護職員時代にアロマセラピーと出会い、アロマセラピスト資格を取得。また高齢者現場にもおもちゃと遊びアクティビティを広げたいとの思いからおもちゃコンサルタントを取得。現在は介護施設や地域の介護予防教室で、五感に響く「アロマ」と「おもちゃ」を活用したケアやストレッチの指導を行っています。

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