遊ぶ日本三大秘境「椎葉村」に移住して考えた 子どもと暮らし

「ないものはない」山村の豊かさ/日本三大秘境「椎葉村」に移住して考えた 子どもと暮らし4

2022.10.21

椎葉にはないもの、コンビニ、高校、消防署。でも、「だからこそいい」と思える豊かさがあるようです。椎葉の子どもと暮らしをつづる連載第4回。

「ないものはない」山村の豊かさ/日本三大秘境「椎葉村」に移住して考えた 子どもと暮らし4

宮崎県椎葉村在住のおもちゃコンサルタント、池田文です。
普段は、村の交流施設でのおもちゃイベント企画、ベビーシッターとしての訪問保育、小さな学習塾の運営などを通して、地域の子どもたち・子育て中の親御さんと関わっています。

この連載では、山間の小さな村で育つ子どもたちを紹介しながら、子どもの育ちに関する私なりの気づき・学びを子育て中の皆さんや、保育や子どもに関わる皆さんと共有したいと思っています。

改めて椎葉の環境を説明する時に、どんな言葉があるだろう、と考えます。
「高校も、コンビニもない」?
「信号は一つだけ」?
「消防署がなくて、救急車は地元の人が出してくれる」?
「夜開いているお店もない」?

今回は、椎葉の子どもたちが過ごしている、この椎葉の環境について触れてみたいと思います。

目次

山だからこその椎葉

五感に響く、椎葉の暮らし

ないものはない。それがよい、という声も

山だからこその椎葉

まず一番に、「山である」ということをお伝えしたいです。
椎葉の山の存在感を説明すると、「山がある」のではなく、「山の中にいる」「椎葉が山にある」という感じです。
同じ椎葉村内でも、時に山道を1時間移動して、他の地域に行かなくてはなりません。険しい山のため、かなり上に登らないと遠くを見渡すことはできませんし、夕焼けも見えません。その昔、平家の落人が源氏から逃れて棲みついたと言われている秘境の地です。

この険しい山で、椎葉の人は焼畑農業や林業、猟などを営みながら、自然とともに暮らしてきました。先人たちが、愛情を注いで作ってきた森は、豊かな水や多様な生態系を支え、「世界農業遺産」として価値が認められています。

今でこそ、生活様式も都市部と変わらないくらい便利になりましたが、子どもたちの毎日の暮らしに、この「山である」ことがかなり影響していると思います。

移住初日に驚いた、夕日も見えない椎葉の山

移住初日に驚いた、夕日も見えない椎葉の山

五感に響く、椎葉の暮らし

例えば、都市部の人工的な刺激が少なく、大自然をダイレクトに感じることができるのも、山の暮らしの特徴です。

夜には静まり返り、季節の音を感じることができます。また空を見上げると都市部では見ることのできない満点の空もあります。

春には、色とりどりのピンクと新緑が交じり合ったモザイク模様の山の色合いが毎日目に入ります。お父さんと出かける川釣りを楽しみにしている子も多いです。
夏には家族でホタルを見に出かけ、子どもたちは川の水の冷たさを肌で感じながら遊びます。
秋には毎日変わる美しい紅葉の色合いを通学や移動の中で当たり前に見ることができます。作業の後や気候がいい季節には、外で焼肉をするおうちも多いです。
冬には、雪が積もるような厳しい寒さの中、神楽を楽しみます。

椎葉の初夏の空

椎葉の初夏の空

季節折々の美しさと結びついた小さなころの体験は、椎葉出身の人にとって忘れられない思い出として、故郷に戻ってくる原点となっているようです。

ないものはない。それがよい、という声も

子育てをしている人たち(主にお母さん)からお話を聞くと、育児のための毎日の労力は少なくなく、買い出し、送迎、何をするにしても町とは違う苦労があるようです。

決して簡単ではない山での暮らしを送りながらも出てきた「ないものはない、だからこそいい部分もあるんです」という言葉に、私はしみじみと感嘆したのを覚えています。近隣から椎葉に来たお嫁さんの言葉でした。

町では当たり前にある子どもたちの娯楽が、椎葉ではない。でも「椎葉にはない」からこそ、親子で気持ちを切り替え、今あるもので工夫してみようとなる、ということでした。
これは、大きくなった子どもたちが「いるメンバーであるもので楽しく遊ぶ」ことにたけているのを見ると、本当にその通りだなあと感じるところです。

キャンプやデトックスがはやるように、便利な時代だからこそシンプルに暮らすことの大切さや、本当に必要なものが見直されている現代。椎葉の暮らしは、不便だからこそ得られるものがあり、子どもたちの育ちにも大きな影響を与えているのではないかと思います。

川に石を投げて楽しむ子どもたち

川に石を投げて楽しむ子どもたち

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池田 文
執筆者おもちゃコンサルタント。宮崎県の椎葉村で子育て支援に関わる。
池田 文
静岡県出身。2019年4月より、日本三大秘境椎葉村に移住しました。 前職が保育士だったこともあり、椎葉で育つ子どもたちに関心があります。先が見えない時代、子どもたちがいろいろなことに挑戦していける土台ってなんだろう? 椎葉にその答えがある気がしています。現在、村の交流施設でのおもちゃイベント企画、ベビーシッターとしての訪問保育、小さな学習塾の運営などを通して、地域の子どもたち・子育て中の親御さんと関わっています。

日本三大秘境「椎葉村」に移住して考えた 子どもと暮らし

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