遊ぶ東京おもちゃ美術館のゲーム・おもちゃがもっと面白くなる話

木のおもちゃ作りは「知性」と「感性」を培う体験

2022.09.30

全国のおもちゃ美術館で遊びの魅力を伝える達人へインタビュー!第2回目は、スウェーデンでものづくりを学んだ、木工の達人にお話を伺いました。

木のおもちゃ作りは「知性」と「感性」を培う体験

東京おもちゃ美術館をはじめ、全国のおもちゃ美術館では、おもちゃを「作る」体験ができるところがたくさんあります。

中でも、東京、焼津、讃岐、福岡では、電動いとのこを使った木工体験が人気を集めています。

焼津おもちゃ美術館でいとのこワークショップを担当されているのが、電動いとのこ「ペガス」を取り扱っている木工道具販売店・株式会社オフ・コーポレイションの遠藤能範さんです。

スウェーデンで家具指物マイスター資格を取得された「木工の達人」でもある遠藤さん。連載第2回目は、電動いとのこの魅力やおもちゃづくりが持つ面白さについて、遠藤能範さんにお話をうかがいました。
インタビューの様子を、おもちゃコンサルタントの高木萌子がお届けします。

目次

ミシンと同じくらい使いやすい電動いとのこ「ぺガス」で木のおもちゃづくり

スウェーデンで学んだ「知性・感性」を培うものづくり

木のおもちゃづくりを通して得られる「鑑賞する力」「想像力」

株式会社 オフ・コーポレイション 遠藤能範さん

遠藤能範さん
株式会社 オフ・コーポレイション/スウェーデン王国 家具指物マイスター

ミシンと同じくらい使いやすい電動いとのこ「ぺガス」で木のおもちゃづくり

遠藤さん:

私たちの会社ではさまざまな木工具を扱っていますが、なかでもスイス製の電動いとのこ「Pegas(ぺガス)」は、操作性がよく、大人も子どもも使いやすいという観点などから、おもちゃ美術館で手作りおもちゃワークショップを行う施設「おもちゃ工房」に設置することになりました。

電動いとのこPegas(ぺガス)

スイス製の電動いとのこ「Pegas(ぺガス)」

静かで振動の少ない電動いとのこ「Pegas(ぺガス)」は、ミシンと同じくらい家庭でも親しんでいただける機械です。安全性も高く、親子での木工作業にはぴったりな機械なんです。
実際に、おもちゃ美術館で親子が一緒に手をそえて、同じ方向を向きながら木をカットする姿を見た時は、新たな可能性を発見できたようで感激しました。

私は普段、静岡を拠点に道具の販売や技術指導を行っており、現在は2〜3ヵ月に1回のペースで、焼津おもちゃ美術館の木工ワークショップを受け持っています。
私自身も、ワークショップを楽しみにしていて、毎回、趣向を凝らした面白い内容になるように準備しています。特に、「3次元のおもちゃをつくる」ということや素材感を大切にすること、また造形を作りこみすぎないことを意識して内容を考えています。

できあがったおもちゃは、あえてシンプルな造形にすることで、こどもたちが想像力を働かせて遊んでもらえるようにしています。

焼津おもちゃ美術館で作れるおもちゃ

焼津おもちゃ美術館のいとのこで作れるおもちゃたち

スウェーデンで学んだ「知性・感性」を培うものづくり

遠藤さん:

私自身、日本とスウェーデンという2つの国でものづくりを学びました。
スウェーデンで、一番驚いたことは、人々が日常的にモノづくりをしていることでした。近所にあるスーパーマーケットの雑誌コーナーには、レシピ本と並んで、木工に関する実用書が置いてあります。スウェーデン人と話していても、ものづくりの素養が高いと感じました。
一方、日本人はできあがったものを買うことに慣れてしまい、身近なものづくりの感覚を失ってしまっているのではないかと感じています。

スウェーデンでは、19世紀終わり頃に世界でも先駆けて工芸教育を一般教育課程の中に取り込んでいます。体を使って素材に触れ、道具を使って、モノを作るという行為が、実際には感性も知性も培ってくれるからでしょう。だからこそ、日常的にものづくりの精神が育まれているのだと思います。

私は、おもちゃ美術館の多田館長がよく語られる「人間が初めて出会う芸術は、おもちゃである」という言葉に、強く共感しているのですが、アートを成り立たせるには「素材、道具、人の技」という要素が必要だと思っています。

その中の「人の技」を大きく3つに分けると「知性、感性、肉体労働」に分けられると思っていて、それぞれの要素が影響しながら培われていくものだと思っています。ものづくりというのは、まさに人の技であり、「知性、感性、肉体労働」の3つの要素を同時に培っている行為だと思うんです。

木のおもちゃづくりを通して得られる「鑑賞する力」「想像力」

遠藤さん:

おもちゃ美術館での木工体験は、職業的にものづくりをする人になるということではなく、どんな仕事を、どんな暮らしをするにも、大切なことを学ぶきっかけになると信じています。

例えば、おもちゃづくりを体験していると、おもちゃで遊ぶ時にも、おもちゃの構造や素材を理解しやすくなります。

そうすると今あるものに対して、観賞する力が培われていきますし、もしかしたら鑑賞する中で何か問題点を見つけるかもしれません。問題点が見つかった時に、実際に自分が体を動かして作った体験があれば、「こうしたらこうなるんじゃないか」という想像力をもって解決につなげていくこともできると思います。そこに、現代における「工芸教育」の意味があると感じています。

人の手で作り上げる「工芸」から、機械が巨大なシステムで作り上げる「工業」に発展してきた過程のなかで、工芸の意味や価値が失われていきつつあるのでは、と思います。人が技能を培って物をつくる過程が機械に代わっていくという流れは、これからの時代においてはAI(人工知能)に変わっていくのかもしれません。
そのように変化する時代であればあるほど、実際に自分で手を動かして物をつくるということが大切になってくると思っています。

特に、親子で、シンプルなものづくりをするというおもちゃ美術館での活動では、教育的な観点において、貢献できることがたくさんあると実感しています。

               

高木 萌子
執筆者おもちゃコンサルタント。全国おもちゃ美術館ファンブック』の制作を担当。
高木 萌子
おもちゃコンサルタント。NPO法人芸術と遊び創造協会で、全国のおもちゃ美術館のグランドデザインや『全国おもちゃ美術館ファンブック』の制作を担当。ファンコミュニティを盛り上げるためSNSで情報発信中。 【Instagram おもちゃ美術館】 ☆是非フォローをお願いします☆ ]https://www.instagram.com/toymuseums_in_japan/

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