木のおもちゃデザインのパイオニア 寺内定夫さんの『おうちごっこ』(前編)
2020.01.10
約60年前から、多くの木のおもちゃをデザインしてきた寺内定夫さん。ロングセラーおもちゃが誕生した背景とは?インタビュー前編です!

グッド・トイ2019・林野庁長官賞に選ばれた「おうちごっこ」は、1970年代に発売されました。
ドア、窓、壁という超シンプルな“おうち”です。ドアを開けると、そこには誰がいるかな?窓からは誰が覗いているかな?どんな景色が見えるかな?
子どものイマジネーションをフルに働かせて遊べるこのおもちゃ。50年近く経った今も、全く色褪せることがありません。

こんな素敵なおもちゃをデザインされたのは、寺内定夫さん(以下、寺内さん)です。約60年前から、木のおもちゃデザイナーとして、多くのおもちゃを作りだされています。
町田市の高台にあるご自宅に伺い、寺内さんと、ご長男で現在“有限会社てらうち”の代表として、寺内さんのおもちゃたちを販売されている寺内滝さん(以下、滝さん)にお話を伺いました。
おうちごっこができるまでのエピソードや思いなどはありますか?
寺内さん:
ままごとをする子ども達を見ていると、それぞれ“家”のイメージを持っている。それを見て、イメージを膨らませてあげたいと思いました。
「おうちごっこ」が発売された1970年代は“幼稚園では遅すぎる”という本も話題になり、知的な教育が社会的な関心になっていました。「プラスチックのおもちゃで、経済優先のおもちゃを作る」というのが主流でした。そこには「子どものためにつくる」という視点がなかったのです。
おうちごっこが商品になるまで、子どもの遊びをイメージしながら色々と試行錯誤してデザインをしました。レンガ色をして、茶色をした壁が繋がっているもの。窓枠のような黒いもの。可愛い壁紙が付いたもの。そして最終的に、壁、ドア、窓の3つがひとつのセットになったものに決まりました。

このデザインに決めたのはどうしてでしょうか。
寺内さん:
まず、3つに分けることで1人でも数人でも一緒に遊べるということです。1軒家ではなく3軒にもできます。
また、壁、ドア、窓が1つにくっついているのでは家が広がらない。3つに分けることによって空間が自由に広がると考えました。
子ども自身がおうちの中にいるような感覚にもなれます。
このお部屋には、他にもたくさんのおもちゃがありますね。おもちゃをデザインし始めたのはいつからですか?

寺内さん:
高校生の時に人形劇をしていました。まだ、テレビも普及していないころ、人形劇を喜んでもらえた時代でした。この時から“子どもの文化”ということに興味があったのです。
その後、大学卒業と同時に、26歳で寺内定夫デザイン研究所を立ち上げ、おもちゃをデザインし始めました。これは一番初期のおもちゃです。

寺内さん:
このおもちゃは私が唯一、デザインから制作までしたおもちゃなんです。のこぎりで、木を少しずつカットしていき自分ひとりで作りました。とても完成まで時間がかりました。これ以降はデザインのみを手掛けるようになります。
滝さん:
1965年には、「汽車つみき」でグッドデザイン賞を受賞しました。おもちゃでこの賞を受賞したのは父が最初です。
当時は北海道産のカツラの木で作っていました。現在は諸戸百年檜を使って作っています。歌舞伎座の舞台などにも使われる、日本有数のブランド材です。


当時の汽車つみき(上)は、現在の汽車つみき(下)より、一回り大きいのですね。ボディは堅牢で重厚なイメージがあります。
寺内さん:
子どもに与えるのならばと、軽いもの、危なくないものを与える傾向にありますが、子どものものだからこの重量感を大事にしました。グッドデザイン賞を受賞後、業者の人が寄ってきて、「汽車のボディに赤い線を入れて欲しい。」「色を付けて欲しい。」など注文が来ましたが、絶対に変えませんでした。
その思いは絶対にブレなかったのですか?
寺内さん:
はい。おもちゃのデザインを考える際には、売れるかということを全く考えません。
売れることより「子どもの生活文化」を保障し、深めること。子どもの心の発達に刺激を残せるか。おもちゃを作ることは世の中に問題提起をすることでもあるんです。
そんな思いもあり、おもちゃデザインと並行して、本も多く出版しました。
「汽車つみき」は国産の木材で、生産もすべて国内でしていて、量産できません。当然値段も高くなり、それほど売れませんでしたが、話題にはなりました。それで全国各地、幼稚園、保育園、自治体などに呼んでいただいて講演会をたくさんしました。特に1980年代は家にいるよりも地方などにいることが多かったです。
* * * * * *
高校生の時から「子どもの文化」に心を向け、おもちゃのデザインや執筆などを通してその思いを貫いてこられた寺内さんは、現在87歳でいらっしゃいます。
次回は、寺内さんの活動の源になった子ども時代、そして、おもちゃデザイナーから発展していった執筆・講演会活動、そして、今後のことなどをお伝えします。どうぞお楽しみに!!
≪次回の公開は2020年1月17日予定です≫

- 執筆者おもちゃコンサルタント、グッド・トイ選考運営委員会 副委員長
橋本 光子 - 公民館で社会教育指導員として、赤ちゃんから高齢者までの社会教育を日々、企画、運営、進行しています。また、グッド・トイの選考に携わり、1人でも多くのおもちゃコンサルタントが選考に参加できるような仕組みを考えています。
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