遊ぶ【連載】明日がちょっと楽しみになる!おもちゃと遊びの話

江戸の土で、失われた郷土玩具を再現!今戸人形作家 吉田義和さん≪前編≫

2022.03.25

東京の郷土玩具「今戸人形」を、江戸・明治と同じ手法で再現している吉田義和さんに、今戸人形の歴史、製法について伺いました。

江戸の土で、失われた郷土玩具を再現!今戸人形作家 吉田義和さん≪前編≫

目次


・東京の郷土玩具「今戸人形」を知っていますか?

・今戸人形は、気持ちを和ませる気取らない郷土玩具

・今戸人形の歴史 

・経験ゼロから徹底的に研究!今戸人形を再現 

東京の郷土玩具「今戸人形」を知っていますか?

こけしやだるま、張り子の犬、赤べこなど、全国各地に伝わるその土地ならではの郷土玩具。
素朴なつくり、温かみのある素材、さまざまな意味の込められた特徴的な造形などが魅力で、近年新たに注目され、若い世代のファンも増え続けていますね。

東京にも、多くの郷土玩具があります。
浅草の今戸で作られていた焼き物の人形、「今戸人形」もその1つです。

思わずくすっと笑ってしまうようなユーモラスな表情の動物・人物のかわいらしい人形たち。「招き猫の元祖」と言われ、全国に広まった猫の人形も作られるなど、江戸の人々に大人気のおもちゃだったのです。
ところが今戸人形は、一度は作り手がいなくなり、伝統が途絶えてしまいました。
そんな今戸人形に魅せられ、自らの手で再現しているのが吉田義和さんです。吉田さんのこだわりは、昔ながらの製法で作ること。
今戸人形にはどんな魅力があるのでしょうか?また、昔ながらの作り方とはどんなものでしょうか?2回に分けてお届けします。

今戸人形は、気持ちを和ませる気取らない郷土玩具

吉田義和さん

約30年前より今戸人形を作っている吉田さん。
もともとは郷土玩具のファンで、地元東京の郷土玩具を調べているうちに今戸人形に出会い、魅力を感じたそうです。
どんなところが魅力なのか、お聞きしてみました。

「今戸人形は庶民の人形なんです。
大事に飾っておく高級品ではなく、子どもが自分で持って遊べるおもちゃです。
土人形だから落とすと壊れますが、親たちは怒ったりせず『疳の虫の根が切れた』と喜んだそうです。壊れても惜しくない、親しみやすい人形です。

たくさん作られていましたから、専業の作り手だけでなく、色々な人が関わっていました。
落語の『今戸の狐』という噺にも、内職で人形の絵付けをする、長屋のおかみさんや芝居作者が登場します。だから当時の人形の顔は、ささっと簡単に描かれていて、どことなくゆるい雰囲気なんです。
見ているこちらの気持ちも何となく和む、そんな気取らない雰囲気が何よりの魅力だと思います」

今戸人形の鉄砲狐

今戸人形の歴史

そんな今戸人形は、江戸時代後期から明治にかけて、盛んに作られていました。
今戸は焼き物の町。江戸時代の初めから瓦や雑器などの生活用品が多く作られていました。
当時から人気の観光地だった浅草には多くの人が訪れていたため、やがてお土産物として人形も作られるようになったのです。
しかし、大正時代から昭和にかけて、生活様式の変化により、焼き物がだんだん作られなくなっていきます。また、関東大震災や東京大空襲などの悲劇に見舞われ、今戸人形の窯元や作家も少なくなっていきました。
昭和19年に、生粋の最後の今戸人形作者と言われた尾張屋 金沢春吉が亡くなった後、今戸人形の伝統は途絶えてしまったのです。

経験ゼロから徹底的に研究!今戸人形を再現

江戸時代・明治時代と同じ作り方での再現を目指した吉田さん。
大学では絵画を専攻していたものの、人形作りに関しては経験がなく、師事する師匠もいない、いわばゼロからのスタートでした。
そこで文献を調べ、現存する当時の今戸人形を徹底的に研究。昔ながらの製法で、今戸人形を復活させました。
一体どんな風に作られているのでしょうか?特徴的なポイントを2つご紹介します。

●昔ながらの製法ポイント1:江戸の土を使う

吉田さんの作業風景

吉田さんが今戸人形を作っているのは、東京・赤羽。今戸から北西に約10キロの距離であり、同じ隅田川・荒川の流域で、土の質も似ています。
地下1.5~2メートルくらいのところには粘土の層が。これは江戸時代から変わらず、当時の今戸焼も、この粘土を使っていました。
自分の住む地面の下には、江戸時代と同じ土がある。そう考えた吉田さんは、この粘土を材料に今戸人形を作っています。
家の近くの工事現場で、地面を掘っているところを見つけたらチャンス!
「土を分けてほしい」と頼み、自ら自転車で何往復もして運んでいるそうです。

ただし、そのままでは不純物が多く使えないため、バケツの中で水にふやかして上澄みをすくい、網の目でこしています。こうすることで、粘土にまじった砂利や植物の繊維などを取り除くことができます。
この作業を丁寧に繰り返し、人形に使う粘土を精製しています。

●昔ながらの製法ポイント2:江戸時代と同じ素材で絵付け

現在造られている郷土玩具は、発色がよく扱いやすいアクリル絵の具などを使ったものも少なくありません。しかし、吉田さんは当時と同じ顔料で色をつけています。

貝殻から作られた胡粉(ごふん)や、膠(にかわ)に加え、蘇芳(すおう)やキハダなどの木を煮出した染料なども使います。この染料も、もちろん吉田さんの手作りです。

植物由来の染料は、やさしい色合いが出せる反面、発色がよくないため、塗っては乾かし、また塗って乾かすという作業を繰り返さなければなりません。時には8回も塗り重ねることがあるそうです。

今戸人形のおひなさま

キハダの樹液からとった黄色、やさしい雰囲気がすてきですね。

*   *   *

いかがでしたか?
次回は、招き猫の元祖と言われる「丸〆猫(まるしめのねこ)」をはじめとする吉田さんの作品と、そこに込められた意味をご紹介します。

今戸人形の丸〆猫

吉田義和さんプロフィール

1963年生まれ。大学では絵画を専攻。日本人形玩具学会会員。
約30年前より江戸・明治の今戸人形を再現している。
2016年、日本民藝館展で日本民藝協会賞受賞。

代表作「丸〆猫」をはじめとする作品は、
・駒場 べにや民藝店
・銀座 諸国民芸たくみ
・谷中 東京キッチュ
・王子 暮らしの器ヤマワなどで購入できる。

【≪後編≫江戸の土で、失われた郷土玩具を再現!今戸人形作家 吉田義和さん 記事はこちらから 】

goodus 編集部
執筆者goodus編集部
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