遊ぶ【連載】明日がちょっと楽しみになる!おもちゃと遊びの話

江戸の土で、失われた郷土玩具を再現!今戸人形作家 吉田義和さん≪後編≫

2022.04.09

今戸人形には、招き猫の元祖とされる「丸〆猫」など魅力的な人形がたくさん。その特徴や製法について、人形作家の吉田義和さんに伺いました。

江戸の土で、失われた郷土玩具を再現!今戸人形作家 吉田義和さん≪後編≫

誰もが一度は目にしたことがある縁起物、招き猫。
最初に作られたのは江戸時代末期と言われていますが、その元祖・招き猫は、こんな姿だったそうです。

丸〆猫

これは、東京の郷土玩具・今戸人形の「丸〆猫(まるしめのねこ)」です。

今戸人形は江戸時代から明治にかけて人気を博し、思わず微笑んでしまうような、愛嬌のある動物や人物の人形が数多くつくられていました。この今戸人形を、昔ながらの手法で再現しているのが、吉田義和さんです。

前回の記事では、今戸人形の歴史や、「江戸の土を使う」など、吉田さんの製法についてご紹介しました。

【≪前編≫江戸の土で、失われた郷土玩具を再現!今戸人形作家 吉田義和さん 記事はこちらから 】

今回は、招き猫の元祖・「丸〆猫(まるしめのねこ)」など吉田さんの作る今戸人形をご紹介します。また、先日行われたトークイベントで披露いただいた、人形作りの工程の一部をお見せします。

目次


◆今戸人形 かわいい動物図鑑
1:招き猫の元祖・「丸〆猫」

2:病気よけの願いがこめられた「みみずく」 

3:2体で1対の「鉄砲狐」 

◆今戸人形「鉄砲狐」ができるまで
・型抜き

・絵付け

◆今戸人形 かわいい動物図鑑
1 招き猫の元祖・「丸〆猫」

今戸人形の丸〆猫 丸〆猫背中の模様

丸〆猫の特徴は、背中に「〆」という模様があること。
これは、「福やお金を丸くせしめる・ひとりじめにする」という縁起担ぎの意味があるそうです。
また、鈴ではなくよだれかけをつけていて、顔は正面、身体は横を向いているのも、現在よく見られる招き猫と違うところです。
現在の招き猫よりも、実際の猫に近い姿ですね。

最も古く招き猫について書かれたものは、江戸末期の嘉永5年(1852年)の文献だと言われています。浅草寺境内の三社権現(現在の浅草神社)の鳥居前で、今戸焼の猫の人形が売り出され評判になったそうです。
同じ年に描かれた歌川広重の錦絵にも、この猫の人形を売っている様子が描かれています。そのため、今戸人形の「丸〆猫」が、招き猫の元祖であり、やがて全国に伝わるうちに、身体も正面向きの「招き猫」が作られるようになったと考えられています。

病気よけの願いがこめられた「みみずく」

今戸人形のみみずく

こちらは、みみずくの人形です。
赤茶色のやさしい色合いは、植物由来のもの。
キハダを煮出した黄色の染料の上に、蘇芳(すおう)を煮出した赤い染料を何度も塗り重ねた色だそうです。現代の絵の具ではなく、キハダや蘇芳を使うのも、昔ながらの製法です。
郷土玩具には赤い色のものが多いですが、赤は病気を除ける力があると考えられていたため、子どもの健やかな成長を願う意味が込められています。

3 2体で1対の「鉄砲狐」

今戸人形の鉄砲狐

「鉄砲狐」は、稲荷神社に奉納される狐の人形です。
ひげのある「雄」とひげのない「雌」で一対になっています。
姿かたちが鉄砲の弾に似ていることから名づけられたと言います。
吉田さんの鉄砲狐、台座のストライプが何ともおしゃれですね。

先日、この鉄砲狐が作られる過程を見せていただく機会がありましたので、ご紹介いたします。

◆今戸人形「鉄砲狐」ができるまで

東京・四谷の東京おもちゃ美術館で行われた、ボランティアスタッフ向けのイベントに吉田さんが登場。多田館長をホスト役に、今戸人形の魅力や製法についてお話してくださいました。
また、会場に材料・道具を持参いただき、作業の一部を実演してくださいました。

・型抜き

今戸人形の型抜き

精製した粘土を薄くのして、前後半分ずつの割型に押し込んでいきます。
型の凹凸に合わせて粘土を伸ばすには、指先の感覚と経験が頼りだそうです。

割型を合わせ、くっついた頃を見計らって、バリを取って外します。

今戸人形の型抜き

狐の姿が現れましたね!

ちなみにこの割型は、吉田さん自身が作ったもの。
江戸・明治期の今戸人形の雰囲気を再現できるよう、現存している人形から絵を起こし、テラコッタ粘土で原型を作ってから型取りしたそうです。
型から抜き出したものは、陶芸用の電気窯で焼きます。

・絵付け

焼きあがった人形は、胡粉で全体を白く塗った後、顔などを描いていきます。
この工程も見せていただきました。
鉄砲狐に使うのは、黒・朱・黄・青の4色、昔ながらの泥絵の具と膠の染料です。

はじめに黒で顔を描きます。
顔が一番肝心なだけに、最後の最後で「あ・・・失敗!」となると大変なので、先に書くことが多いそうです。

今戸人形の絵付け

次は黄色で台座を塗ります。現在作られている鉄砲狐にはあまり見られませんが、古い人形や文献を参考にしたスタイルです。

続いて赤。耳や鼻に加え、爪にももちょんちょんと赤を入れます。
ぐっと狐らしくなりましたね。

今戸人形の狐

さらに青で台座の縞模様を描いて完成!
「雄の方には、最後の最後にひげを描きます。
2つ1組にして、器量の良くない方にひげを描くことが多いですね」
と吉田さん。
お話しながら、あっというまに狐に命が吹き込まれていく様子に、皆さんくぎ付けでした。

前回のインタビューで、吉田さんは今戸人形について
「見ているこちらの気持ちも何となく和む、そんな気取らない雰囲気が何よりの魅力」と語っていましたが、吉田さんの愛らしい作品を見て、その言葉の意味を実感することができました。

吉田さんが作品を作り続けていることによって、江戸・明治の今戸人形のもつ雰囲気が現代にも伝わっているのですね。

*   *   *

吉田義和さんプロフィール

1963年生まれ。大学では絵画を専攻。日本人形玩具学会会員。
約30年前より江戸・明治の今戸人形を再現している。
2016年、日本民藝館展で日本民藝協会賞受賞。

代表作「丸〆猫」をはじめとする作品は、
・駒場 べにや民藝店
・銀座 諸国民芸たくみ
・谷中 東京キッチュ
・王子 暮らしの器ヤマワなどで購入できる。

【≪前編≫江戸の土で、失われた郷土玩具を再現!今戸人形作家 吉田義和さん 記事はこちらから 】

goodus 編集部
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