遊ぶ【連載】明日がちょっと楽しみになる!おもちゃと遊びの話

玩具研究者・森下みさ子先生が語る「変わりゆくおもちゃ、変わらない遊び ~メンコからラブandベリーまで~」(後編)

2022.09.10

遊びのデジタル化が進むと、やがておもちゃはなくなっちゃうの?玩具研究者・森下先生に、戦後のおもちゃと遊びの変化について伺いました。

玩具研究者・森下みさ子先生が語る「変わりゆくおもちゃ、変わらない遊び ~メンコからラブandベリーまで~」(後編)

戦後から現在まで、社会が変容する中で、子どもたちの遊びやおもちゃは、どのように変わってきたのでしょうか。また変わらないものは何でしょうか。 児童文化・玩具文化の研究者で、白百合女子大学教授の森下みさ子先生による「子どもとおもちゃの対話をめぐって -戦後から今へ-」と題した講演の内容をもとにご紹介します。

前編では、おもちゃと子どもの対話関係や、男の子を魅了するバトル・収集の遊びの歴史についてご紹介しました。

【変わりゆくおもちゃ、変わらない遊び ~メンコからラブandベリーまで~(前編)はこちらから】

目次【後編】

1:紙の着せ替えからデジタル、さらにはリアルなファッションへ。憧れを映す女の子の好きな遊び
 ・人形に挟んで着せた 着物姿の着せ替え

 ・モデルが少女に。立体着せ替え「リカちゃん」登場

 ・デジタル化とともに、「わたし」の着せ替えへ

2:「モノ」から「情報」で遊ぶ時代に、おもちゃはなくなるの?

羽子板

1:紙の着せ替えからデジタル、さらにはリアルなファッションへ。憧れを映す女の子の好きな遊び
・人形に挟んで着せた 着物姿の着せ替え

森下先生:

戦後、多くの女の子が遊んだ遊びと言えば、着せ替え遊びです。
遊び自体の歴史は古く、江戸時代には千代紙でできた「姉様人形」の遊びがありましたし、明治から昭和初期にかけて、紙製の着せ替え人形がありました。 当時は着物姿の着せ替えでしたので、帯が描かれた背面も重要です。そのため、人形に挟んで着せるような、裏表両面がある着せ替え人形でした。

・モデルが少女に。立体着せ替え「リカちゃん」登場

メンコ

森下先生:

戦後になると、歌手や子役スターをモデルにした着せ替え人形が流行します。ここでは、身近な日常の姿と、華やかなステージ衣装の両方を着せ替えることができました。

その後、少女マンガの主人公のような女の子をモデルにしたマンガ着せ替えが登場し、現在の自分に近い「少女」に憧れを投影できるようになりました。洋服も、挟むのではなく、ツメのような部分をひっかけて着せる形式になります。

これが立体化したものが、1967年に登場したリカちゃん人形でした。お手本となったアメリカ生まれのファッションドール・バービーは、仕事を持ち、自分の経済力でファッションを楽しむキャリアウーマンという設定でした。一方のリカちゃんは、フランス人指揮者のパパとファッションデザイナーのママをもつ少女です。より自分に近い存在として憧れを抱けるリカちゃんは、現在に至るまで女の子たちを魅了し続けています。

・デジタル化とともに、「わたし」の着せ替えへ

森下先生:

2000年代になると、着せ替えがデジタル化します。2004年「オシャレ魔女 ラブandベリー」の登場です。

服や靴といったファッションアイテムカードを集め、ゲーム機に読み込ませると、画面上のキャラクターのコーディネートが完成。ダンスゲームで得点を競います。
こちらも「ムシキング」同様、社会現象になるほどの大流行となりました。ゲーム機の前には女の子たちが行列を作り、ママたちも一緒に夢中になりました。

その魅力は、自分の好きなキャラクターに自分の選んだ服を着せ、ボタンを操作してゲームに参加することで、「わたし」とキャラクターが一体化するような体験です。「わたし」で着せ替え遊びをするような感覚と言えるでしょう。
大流行した「ラブandベリー」は、子ども服ブランドにも展開されました。ゲームの中のファッションアイテムが実際の洋服になり、自分で着ることができるのです。まさに、「わたし」の着せ替えそのものでしょう。

その後2012年に登場した「アイカツ!」では、自分だけのオリジナルキャラクターを作って遊ぶことができるようになり、「わたし」で着せ替えて遊ぶという楽しさがさらに進化しています。
現在、ネット上でアバターを作って楽しむことが広がっていますが、その先駆けと言えるかもしれません。

また、コロナ禍においてはオンラインが日常的になりましたが、自分の画面の背景を変えたり、自分の姿を加工したりなど、デジタルの着せ替えみたいですよね。時代を先取りしていた遊びと言えるかもしれません。

紙の人形からゲームの世界へ形態は変わっていきましたが、共通しているのは「わたし」の憧れを託した遊びということです。「わたし」で遊ぶということが、女の子の遊びの根底にあるように思われます。

 「モノ」から「情報」で遊ぶ時代に、おもちゃはなくなるの?

講演の後、森下先生にお話をうかがいました。

編集部:

戦後の遊びの移り変わりと、本質的な変わらない部分がよくわかるお話でした。
いまの子どもたちの、ハイテクなおもちゃやデジタルな遊びはよくわからないと思っていましたが、違う視点で見られそうです。

森下先生:

おもちゃや遊びって、全く同じ体験はなくても、その楽しさは感じられるんです。
大人が今の子どもたちの遊びを見るときもそうだし、反対に今の子どもたちが、ベーゴマなどの昔遊びを見ても、「おもしろそう」ということは伝わります。世代や国が違っても、どんな人にもおもちゃで遊んだ子ども時代は共通です。だから、おもちゃには人をつなげる力があるのだと思います。

コロナによるステイホームの期間中、ゲームの「あつまれどうぶつの森」が流行りました。会えなくても、子どものごっこ遊びのようなゲームの中でつながれることにとても元気づけられたのだと思います。

さまざまな分断が問題になっている時代に、そうしたおもちゃの力が改めて見直されるのではないでしょうか。

編集部:

今日のお話から、時代の移り変わりとともに、おもちゃという「モノ」の遊びから、データや情報の遊びに変わっていることがうかがえます。この傾向が進むと、いずれは「モノ」としてのおもちゃはなくなってしまうのでしょうか?

森下先生:

確かに、手を使った遊びから情報の遊びへ変化していますね。
でも、私は、おもちゃはなくならないと思います。
赤ちゃんの一番はじめの遊びは、やはり手遊びです。手でモノに触れて、モノの呼びかけに応えて遊び始めることが遊びの原点なので、時代が変わってもそれは変わらないでしょう。

学生たちと、「心はどこにあると思う?」なんて話をすることがあります。
心臓のあたり、脳など、いろいろな考えがあり、正解はありませんが、私は「皮膚にあるかもしれない」と思うことがあります。「触れ」「合う」ことで心が動いたり伝わったりすることが大きいと思います。
手をはじめ、身体全体の皮膚を通した感覚は、人間の基盤として重要な体験になります。

また、デジタルな遊びをしているようでも、意外と皮膚感覚も使っているものではないでしょうか。
テレビゲームでも、自分が使い込んで、手になじんだコントローラーでないとダメ、という子もいるそうです。

手で触れられるおもちゃは、これからも大切であり続けると思います。

玩具研究者・森下みさ子先生が語る「変わりゆくおもちゃ、変わらない遊び ~メンコからラブandベリーまで~」(前編)はこちらから

◆森下みさ子先生 プロフィール

白百合女子大学 森下みさ子

白百合女子大学人間総合学部児童文化学科教授。
児童文化、玩具文化の研究者として、絵本、おもちゃ、アニメ、ゲームなどさまざまな分野から子どもの姿を見つめている。
『わたしたちの江戸』(共著)にて、日本児童文学学会奨励賞を受賞。
『おもちゃ革命』により日本保育学会文献賞を受賞。

◆新宿区立 新宿歴史博物館

新宿歴史博物館

新宿の歴史や文化の拠点として設置された総合博物館。区内の出土品を中心に、旧石器時代からの新宿の歴史をたどる常設展では、江戸時代のジオラマや建造物、復元された乗り物などが展示され、楽しく歴史に触れることができます。
趣向を凝らしたさまざまな企画展、講座なども人気を集めています。
※現在、「記憶の底にある宝物 子ども時代の遊びとおもちゃ」展は終了しています。

★企画展示「新宿の弥生時代~教科書の弥生時代と比べてみると~」(9月17日~12月4日)

★アクセス:
JR中央線・総武線、東京メトロ南北線「四ツ谷駅」より徒歩10分
東京メトロ丸ノ内線「四谷三丁目 駅」出口4より徒歩8分
都営新宿線「曙橋駅」A-4出口より徒歩8分

【公式ホームページはこちら】

goodus 編集部
執筆者goodus編集部
goodus 編集部
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