遊ぶ【連載】明日がちょっと楽しみになる!おもちゃと遊びの話

玩具研究者・森下みさ子先生が語る「変わりゆくおもちゃ、変わらない遊び ~メンコからラブandベリーまで~」(前編)

2022.09.10

メンコとムシキングには共通点がある!?玩具研究者・森下先生に、戦後のおもちゃと遊びの変化について伺いました。

玩具研究者・森下みさ子先生が語る「変わりゆくおもちゃ、変わらない遊び ~メンコからラブandベリーまで~」(前編)

現代の子どもたちに人気のおもちゃと言えば、何といってもゲームですね。
昼下がりの公園では、小学生らしき男の子たちが何人か集まって、それぞれが小さなゲーム機を操作している光景もよく見られます。
そんな姿を見て、「自分たちの子どもの頃とはずいぶん変わったなあ」と感じている方も多いかもしれません。

「でも、その底には、変わらずずっと流れている遊びの本質があるんです。」
そう語るのは、児童文化・玩具文化の研究者で、白百合女子大学教授の森下みさ子先生です。
2022年8月20日、新宿歴史博物館にて、森下先生による「子どもとおもちゃの対話をめぐって -戦後から今へ-」と題した講演会が行われました。
子どもたちの遊びやおもちゃは、どのように変わってきたのか、また変わらないものは何なのか、講演の内容をもとにご紹介します。

新宿歴史博物館での講演

目次【前編】

1:おもちゃは相棒、おもちゃとの対話

2:メンコ、ビックリマンシールからムシキングへ。男の子が好きな遊びの変化
・バトルから収集の遊びに変化したメンコ

・社会現象にもなったライダーカード、ビックリマンシール

・デジタル化とともに、バトルに回帰 ムシキング

1:おもちゃは相棒、おもちゃとの対話

講演会当日、新宿歴史博物館では、『記憶の底にある宝物 子ども時代の遊びとおもちゃ』という企画展が開催されていました。
そこにはブリキの車、リカちゃん人形、怪獣のソフビ人形など終戦直後から昭和50年代までの懐かしいおもちゃが、当時の写真や思い出コメントとともに展示されていました。そんな企画展の観覧者など、約40名が講演会に参加しました。

記憶の底にある宝物 子ども時代の遊びとおもちゃ展

森下先生:

皆さん、企画展はご覧になりましたか?
懐かしいおもちゃがたくさんあって、それを見ている皆さんが嬉しそうに「これ知ってる!持ってた」とささやく声があちこちで聞こえる、楽しい展示でしたね。

おもちゃを語るとき、「アフォーダンス」という言葉が重要になります。
これは、モノが発している可能性のことで、モノから人に対して呼びかけるような力のことです。
子どもたちはまさに、モノからの「遊ぼうよ」という呼びかけを聞いて、遊びはじめます。
ですから、子どもにとってのおもちゃは、遊びを通して対話する相手、大切な相棒と言えます。

今回は、子どもとおもちゃの対話が戦後、どんな風に移り変わっていったかを、男の子編、女の子編に分けてお話しします。
ジェンダーで分けてしまうことにはさまざまな考え方もありますが、ここでは「実際に、その時代ごとに男の子/女の子によく見られた遊び」として、大きくとらえてまいります。

2:メンコ、ビックリマンシールからムシキングへ。男の子が好きな遊びの変化
・バトルから収集の遊びに変化したメンコ

メンコ

森下先生:

戦後すぐ、男の子たちが夢中になった遊びと言えば、メンコです。 
メンコの原型は、木の実や石ころをぶつけあう遊びだと言われています。
木の実や石ころの「遊ぼうよ」という声にこたえて、自然に生まれた遊びなのでしょうね。

やがて「泥メンコ」という土製の面模(めんがた)が作られるようになり、戦前明治期には「鉛メンコ」になります。
平らで薄い形になったため、ぶつけるのではなく「打ち付ける」遊び方になりました。
その後、鉛が有毒だということもあって、紙製のメンコが誕生しました。

紙メンコになってからは、印刷技術の発達により、さまざまな絵柄が描かれた、きれいなメンコが登場します。
戦後になって描かれているのは、宇宙人やロボット、映画やラジオ、テレビでなじみのあるヒーローなどで、背景にストーリーのあるものです。こうしたメンコは、自分のお気に入りであればあるほど、打ち付けてボロボロにしてしまうのは惜しいですね。
やがて、メンコは戦って取り合う遊びから、収集して楽しむカードの遊びに変化していきます。

・社会現象にもなったライダーカード、ビックリマンシール

森下先生:

このような「収集して楽しむ遊び」は、その後現代まで、さまざまな形で繰り返しブームを巻き起こしました。

例えば、1971年に登場したライダーカードです。
スナック菓子のおまけだったこのカードは、表面にテレビ番組「仮面ライダー」のさまざまな場面が描かれ、裏面にはその場面のセリフや解説が記されていました。
たくさん集めれば、仮面ライダーの世界を見て、知って、所有できる。男の子たちは夢中になり、社会現象にもなりました。ブームの中で、カードだけ取って、スナック菓子を捨ててしまうといった出来事もおこり、「事件」として報道されていました。

続いて、1985年に登場したのは、ビックリマンシールです。表面にはさまざまなキャラクターが描かれ、裏面にはキャラクターに関する謎めいた情報が書かれています。たくさん集めていくと、悪魔と天使が戦うという広大な物語世界が少しずつ明らかになっていきます。

「手がかりを集めると、物語世界の全体像が見えてくる」という仕組みは、RPG(ロールプレイングゲーム)と同じですね。1983年には家庭用ゲーム機が普及し始め、86年には「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」などのRPGが登場します。こんな時代にぴったり合っていたビックリマンシールは、やはり大ブームになりました。

こちらも、シールだけ取ってチョコレートを捨ててしまう「事件」が起こり、購入数の制限などを設けたお店もあったようです。
ですが、男の子たちはそれにもめげず、自転車を飛ばしてあちこちの店をはしごし、シールを集めていました。また、友達同士で交換する際の「交換レート」が存在したり、ニセモノが出回ったりしていたようで、シール収集に熱中した彼らのエピソードには、興味が尽きません。

・デジタル化とともに、バトルに回帰 ムシキング

森下先生:

2003年に登場した「甲虫王者ムシキング」は、カブトムシやクワガタのカードをゲーム機に読み込ませると、ムシたちが画面上に現れ、バトルを繰り広げるものです。
バトル遊びだったメンコが、やがて収集遊びになり、カード、シールと移り変わっていきましたが、ここで、収集とバトルの両方の要素をもった遊びとなり、大流行するのがおもしろいところです。

紙メンコからムシキング等のゲームまで、手でメンコを打ち付ける遊びから、カードに描かれた情報を集めるデジタルな遊びへと、一見まるで異なる遊びのようですが、底に流れているものは共通しているのです。

               

◆森下みさ子先生 プロフィール

白百合女子大学 森下みさ子

白百合女子大学人間総合学部児童文化学科教授。
児童文化、玩具文化の研究者として、絵本、おもちゃ、アニメ、ゲームなどさまざまな分野から子どもの姿を見つめている。
『わたしたちの江戸』(共著)にて、日本児童文学学会奨励賞を受賞。
『おもちゃ革命』により日本保育学会文献賞を受賞。

◆新宿区立 新宿歴史博物館

新宿歴史博物館

新宿の歴史や文化の拠点として設置された総合博物館。区内の出土品を中心に、旧石器時代からの新宿の歴史をたどる常設展では、江戸時代のジオラマや建造物、復元された乗り物などが展示され、楽しく歴史に触れることができる。
また、趣向を凝らしたさまざまな企画展、講座なども人気を集めている。
※現在、「記憶の底にある宝物 子ども時代の遊びとおもちゃ」展は終了しています。

★企画展示「新宿の弥生時代~教科書の弥生時代と比べてみると~」(9月17日~12月4日)

★アクセス:
JR中央線・総武線、東京メトロ南北線「四ツ谷駅」より徒歩10分
東京メトロ丸ノ内線「四谷三丁目 駅」出口4より徒歩8分
都営新宿線「曙橋駅」A-4出口より徒歩8分

【公式ホームページはこちら】

goodus 編集部
執筆者goodus編集部
goodus 編集部
わくわくすること、明日がちょっと楽しみになるようなことを発信していきます。

【連載】明日がちょっと楽しみになる!おもちゃと遊びの話

この連載の記事一覧へ

遊ぶ知る2022.09.10