遊ぶ【連載】明日がちょっと楽しみになる!おもちゃと遊びの話

資格取得をきっかけに児童館勤務、町議会議員へ。共通点は「幸せな居場所づくり」

2023.01.28

子育てに悩むママからおもちゃコンサルタントへ。児童館勤務を経て、町議会議員へ。北海道・斜里町の小暮千秋さんのストーリーと活動の原動力について伺いました。

資格取得をきっかけに児童館勤務、町議会議員へ。共通点は「幸せな居場所づくり」

遊びのスペシャリストであるおもちゃコンサルタントは、全国に約6000人。遊びの力を活かして、それぞれの地域で人と人とをつなぐ活動をしている人がたくさんいます。

北海道・斜里町の小暮千秋さんもそのうちの一人です。
世界自然遺産に指定されている知床半島の半分を占める町で、子育て支援に関わり、子どもたちに自然のすばらしさを伝え、高齢者の居場所を作るなど、地域のための活動を続けてきた小暮さんは、2019年より町議会議員を務めています。

子育てに悩むママからおもちゃコンサルタントへ。児童館勤務を経て、町議会議員へ。小暮さんはどのように一歩踏み出し、活動を広げてきたのでしょうか。
東京おもちゃ美術館の館長、多田千尋がお話を伺いました。

目次

子育て中のモヤモヤから「子どもも自分も楽しいこと」を見つける

役割を与えられると頑張れる。失敗しても次がある!

おもちゃコンサルタントと町議会議員。目指す地点は同じ

小暮千秋さん
北海道・斜里町在住。
保育士、放課後児童支援員として放課後児童クラブ、児童館に勤務後、2019年地方統一選挙に初出馬。現在は斜里町議会議員。おもちゃコンサルタント、木育インストラクター、アクティビティインストラクターの資格をもつ。

子育て中のモヤモヤから「子どもも自分も楽しいこと」を見つける

多田:

小暮さんと初めて出会ったのは、2001年に斜里町で行われた「子ども芸術フェスティバル」でしたね。

小暮:

はい。移動おもちゃ美術館として、東京おもちゃ美術館からたくさんのおもちゃがやって来て、館長の講演もありました。
私は実行委員としてフェスティバルに関わっていましたが、館長の講演を聞いたことがきっかけで、「おもちゃってすごい!」と目覚めて、おもちゃコンサルタントの資格を取りました。

第1回斜里町子ども芸術フェスティバル

多田:

どういう経緯で「子ども芸術フェスティバル」に関わることになったんですか?

小暮:

そもそも私は、本当に普通のママだったんです。出身は小清水町で、夫の仕事の都合で斜里町に住むようになり、子育てをしていました。

私はそれまで、「子育てはみんながしていることだから、誰でもできる」と思っていたんですよ。
でも、自分が当事者になってみると、違いました。
もちろん子どもはかわいいのですが、自分以外に気にかけなければいけない存在が常にあることがしんどい。自分が自分らしくいられる時間が少なくて、苦しく感じたんです。
だから、そこから抜け出すために「子どもも楽しいし、自分も楽しいものは何かないか」と探すようになりました。

まず出会ったのは絵本です。図書館に通ううちに、絵本の読み聞かせサークルがあることを知り、仲間と一緒に、読み聞かせの活動をするようになりました。
そこで「子ども芸術フェスティバルの実行委員をやってみない?」と誘われたんです。

多田:

そのころ、自分で企画した講座やセミナーも開催していたそうですね。
そうやって積極的に活動していけたのはどうしてでしょうか。

小暮:

1つは、斜里町という環境があったかと思います。
都会のように、自分の興味のある講座がどこか近くでやっているということは滅多にありません。
興味があったら、誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分で作るしかない。
そういう田舎ならではの「自分で作り出していく」という暮らし方が、私には合っていたのだと思います。

2つめは好奇心ですね。
人から「向上心があるね」と言っていただくこともあるんですが、自分では好奇心だと思っています。初めてのことはまず「やってみよう」と思うタイプなんです。
おもちゃコンサルタント養成講座も、特に資格を取って何をしようということもなく「まずやってみよう」と受講を決めました。
実際に資格を得てみると、講座やセミナーなど、それまでと同じ活動をしていても、しっかりした土台ができたように感じました。「おもちゃコンサルタント」という肩書を持つことができてよかったと思いました。

役割を与えられると頑張れる。失敗しても次がある!

多田:

小暮さんはおもちゃコンサルタントの取得後、イベントや講座企画のほか、図書館や児童館におもちゃの設置を進めるなどの活動をしていらっしゃいましたね。また、地域で自然や木の魅力を伝える木育を推進されました。

小暮:

北海道は森が多く、斜里町には世界自然遺産の知床の森がありますが、どこまで日常に木の恵みを活かせているだろうかと考えると、子どもたちにもっと木の良さを伝えていきたいと考えるようになりました。

2016年に木育キャラバンと木育インストラクター養成講座を開催し、多田館長の講演も行いました。
町の皆さんは、大人も子どもも素敵な木のおもちゃがある空間をとても喜んでいて、木育が町民に浸透した期間だったと思っています。
斜里町にもおもちゃ美術館を作れるのではないか。そう考えて提案もしてみたのですが、残念ながらその時には実現できませんでした。

多田:

木育を町に広げていく大きなきっかけになりましたね。
それにしても、小暮さんがそのように活動を広げていく原動力は何でしょうか?

小暮:

私は、役割をもらって仕事をするのがとても好きなんです。
それは、自分には他の人のためにできることがあって、それを提供して喜んでもらうとうれしい。そんなとてもシンプルな喜びです。

社会活動をしていくうちに、親子向けの講座、遊びの力を活かした介護予防教室などの講師として呼んでもらうことが増えてきました。
そうした活動が行政の目に留まり、保育・教育・福祉の有識者として意見を求められるようになっていきました。
役割をいただいたので、自分ができることをしてきた、そんな積み重ねだったと思います。

多田:

児童館職員としてリニューアルに関わり、木の遊具がたくさんの場所を作り上げたのも「役割」と感じたからですね。

小暮:

ちょうど職員になった頃に改修工事が決まったので、新しい児童館がよくなるように全力をつくしました。
敷地内で伐採処分されることになったシラカバの木を使って、木のボールプールを作りたいと行政に掛け合いました。地元の木工作家さんがボールプールを研究してくださって、枠をつくり、子どもたちがボールを磨いて仕上げました。今でも斜里町の児童館「あそぼっくる」で子どもたちの人気を集めています。

改修後の児童館利用者は約5倍に増えた

多田:

2019年にはそんな活動からさらにステップアップして、町議会議員選挙へ出馬されたわけですが、そこに至った心境はどのようなものだったのですか?

小暮:

議会モニターをお引きうけしたことがきっかけでした。
当時の斜里町議会選挙は、候補者が少なく、無投票で行われました。それに危機感をもった議会が、町民から広く意見を募るためにモニター制度を始めました。
いろいろと社会的活動をしてきた私にとっても、それまで議会や議員は遠い存在でした。
モニターになったことで、議員の人となりや信条がわかり、どんな仕事をしているのかが初めて分かったんです。

議員は行政の監視役であるとともに、政策提言ができる。
つまり、まちづくりにダイレクトにかかわることができるんです。
それを知ったときに、「自分がおもちゃコンサルタントとしてやってきた活動は、まちづくりそのものだった」と気が付きました。
そうしたまちづくりの活動にどうやって今後かかわっていくかと考えたときに、おもちゃコンサルタントや児童館の職員から一歩進んで、議員として積極的に関わっていこうと思いました。

多田:

そうはいっても、小暮さんにとって大きなチャレンジだったと思います。前向きにチャレンジできる秘訣は何でしょうか。

小暮:

楽観的なのかもしれません。
失敗したら恥ずかしい落ち込むけれど、命まで失うわけじゃない。また次がある、いつもそう思っています。
これは、遊びの中で培われたのかもしれません。
遊びやゲームでは勝ったり負けたりしますけど、負けても「もう一回、次の勝負!」って切り替えて楽しめますよね。

多田:

おもちゃコンサルタントならではの「やってみよう精神」ですね!

おもちゃコンサルタントと町議会議員。目指す地点は同じ

多田:

そうして見事当選されて、議員となった後、変化はありましたか?

小暮:

立場は変わりましたが、取り組んでいることはあまり変わらないですね。
私がこれまで続けてきたことは、子育て世代の声を行政に伝えること。
また福祉の現場では、高齢者が最後まで自分らしく楽しく過ごせるようにすること。
それは議員としても変わりません。
これまでやってきたことの延長線上に議員があると思います。

これまで通り、普通に生活もしていますし、今は障がい者福祉施設や放課後等デイサービスで、パートもしているんです。
普通の生活をしながら議員もする、そんなスタイルがあってもいいと思います。
私のような「パート議員」がいることを知ってもらうことで、若い人も立候補しやすくなるといいですね。

町会議員として、花巻おもちゃ美術館を視察

多田:

これからかなえたい夢はありますか?

小暮:

斜里町を、年齢問わずすべての人が幸せに暮らせるまちにしたいです。
「幸せ」って、役割があって、居場所があり、大事にされることだと思います。
そんなまちづくりのために、努力していきたいです。

また、世界自然遺産・知床の町ですから、「知床おもちゃ美術館」ができたらいいですね。
知床の森は、日本初のナショナルトラスト運動があり、森が保全されています。保全のためには間伐材が出ますから、そんな木を活かして、知床ならではの木のおもちゃができたらいいと夢を膨らませています。

多田:

役割と居場所があるから輝ける。それは、小暮さんのお話を聞いていてもその通りだと感じます。
全国に続々と誕生しているおもちゃ美術館では、人が集う場を作ることで町の活性化を果たしたり、ボランティア活動で地元の方の居場所ややりがいを生み出したりという効果を生んでいます。
知床おもちゃ美術館が実現したら、幸せなまちづくりのお手伝いができるかもしれません。一緒に夢をかなえたいですね。

goodus 編集部
執筆者goodus編集部
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