知る【連載】明日がちょっと楽しみになる!おもちゃと遊びの話

神経小児科医が語る 手とおもちゃの豊かな関係って?

2018.10.05

人の体の中で最も複雑な器官、「手」。そんな手の発達を促すために効果的なのは「遊び」と「おもちゃ」でした。

神経小児科医が語る 手とおもちゃの豊かな関係って?

ものをつかむ、にぎる、めくる、つまむなど、私たちが何気なく行っている手の動作は、ロボットに再現させようとするととても難しいと言われています。

「手」は人間の体の中で最も複雑な器官。それゆえに子どもが成長・発達するうえで、手の発達は大切なプロセスです。

子どもの手の発達を促すおもちゃという道具に注目し、長年にわたり小児病院の神経科医として功績を積んでこられた二瓶健次先生にお話を伺いました。

複雑で多様な手の動きを促す「おもちゃ」という道具

何らかの神経系の発達障害をもった子どもたちをいかにサポートしていくか、それが私たちの役割です。援助のやり方にはいろいろな方法がありますが、そのなかのひとつがおもちゃですね。なぜならおもちゃというのは、ほとんどが「手」を使うからです。

子どもたちがおもちゃで夢中になって遊んでいるうちに、発達が遅れていた手の操作がうまくできるようになることがあります。しかも手の発達が進むことによって、全体の発達も促されていくのです。これは、人間の身体全体の中でも手がいかに複雑な機能をもった、大切な器官であるかということを表しています。

手というものは実は非常に複雑にできていて、それゆえに人間の体の中でいちばん最後に発達する器官なんです。

たとえば肘から手首までの筋肉の数は10くらいあるのですが、手首から先には、なんとその3倍もの筋肉がある。「手」という部位だけでこれだけの筋肉があるということは、それだけ複雑な動きをするためにあるわけです。

手に関する言葉というのはたくさんありますよね。押す、叩く、ひねる、まわす、はさむ、つまむ……これらの動作はすべて、それぞれ異なる筋肉の動きをします。こうした複雑で多様な動きを促す要素が、おもちゃの中にはたくさん入っているんですね。私たちは医療の場で、いわば手の動きを促すための道具としておもちゃを使っているといえるでしょう。

こまにひもを巻く
ピースをつまむ

ポイントは手と脳の情報伝達

手を動かして、おもちゃで遊ぶときには、必ずほかの要素も一緒に機能します。つまり脳から手への指令が働いているわけです。この脳から手への情報伝達というのが非常に複雑であり、人間の機能のなかでも重要な役割を果たしています。また、逆に手から脳への情報伝達も同様に重要です。

手は目や耳と同じように繊細な情報をキャッチします。だから手袋をはめただけでも、積み木遊びなどはかなりつまらなくなってしまいます。やりにくいというだけでなく、積み木のスベスベ感、ぬくもりなどもわからなくなります。

それに木のおもちゃは、手に水分がないと、つかみにくいんです。つまり、手のひらに適度に汗をかいていないといけない。手の発汗には精神的な発汗と体温上昇による発汗があり、手のひらは精神的な発汗、手の甲は体温による発汗をします。だから、おもちゃを前にして適度に高揚していたり、緊張していたりすれば木の積み木は持ちやすくなるんですよ。

複雑で豊かな手の動きを、おもちゃで体験する

手のように複雑な器官は、使わなければそれだけ機能が退化していきます。手の能力そのものはとても多彩ですが、現代の生活のなかで私たちがそれを全部生かしているとはとても思えません。50年前の生活と今の生活の違いを思えば、当然、手仕事は少なくなってきています。人類が進化するほどに、手の動作は少なくなっていく。

子どものころにたくさん手を使うということは、いろいろな意味で人間の能力に影響をおよぼすことは確かだと思います。

手仕事が少なくなった現代だからこそ、人間の手が本来もっている豊かな動きを、子どもたちには体験してほしいですね。さまざまな手の動きを促すおもちゃで遊ぶことは、大きな意味があると思いますよ。

ボルトをしめる

二瓶健次(にへいけんじ)
東北大学医学部卒業。東京大学小児科、自治医科大学小児科を経て、 1979年から2001年まで国立小児病院神経科医長、 2001年から2004年まで国立成育医療センター神経内科医長。現在は、東京西徳洲会病院小児センター顧問。小児神経学、発達神経学が専門。認定NPO法人芸術と遊び創造協会/東京おもちゃ美術館理事。

goodus 編集部
執筆者goodus編集部
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