遊ぶ【連載】グッド・トイの秘密を見に行こう!

木のおもちゃデザインのパイオニア 寺内定夫さんの『おうちごっこ』(後編)

2020.01.17

寺内定夫さんの木のおもちゃデザインのルーツ、「書くこと」への思いなど、貴重なお話を伺いました。インタビュー後編です!

木のおもちゃデザインのパイオニア 寺内定夫さんの『おうちごっこ』(後編)

前編では、2019年のグッド・トイで林野庁長官賞も受賞した「おうちごっこ」を中心に、おもちゃデザイナーの寺内定夫さん(以下、寺内さん)と、ご長男で有限会社てらうち代表の寺内滝さんにインタビューしました。
後編では、寺内さんの半生や今後のことなどを綴ります。

寺内さんはどんな子ども時代を過ごされたのですか?

寺内さん:

第二次世界大戦中に中国の天津に渡りました。そこで過ごした10年足らずの生活が、自分のパーソナリティに影響を与えたと思います。
私は8人兄弟の末っ子、上の7人の兄弟たちは母親から「絶対、さーちゃんを泣かしちゃだめ」と言われていたくらい大切に育てられました。体が弱かったから、外で遊ぶことよりも、家にいて、絵や字を書いたりしていることが多かったですね。
今、当時の天津を思い浮かべると、原っぱが一面に広がっている風景が思い浮かびます。山なんてなく、ただただ、原っぱが広がっている。その中で育ったからか、私のデザインや作風は“おおらか”なのかもしれません。戦争が終わった1年後に日本に戻ってきました。

絵や字を書いていたとのですが、いま棚に飾られている書は、ご自身で書かれたのですか?

寺内さん:

はい。私は“書くこと”が好きです。墨を摺り、筆で書きます。習ったこともないので、「上手い」とは言われませんが、「元気がいい字だね」と言われることはあります。
言葉も自分で考えます。おもちゃを買ってくれた方のリクエストがあれば、直筆のメッセージカードを書いて同封することもあります。

「書くこと」と言えば、ライフワークとしてたくさんの著書も書かれていますね。今では手に入らない貴重なものもあります。

寺内さん:

売れることを考えないで、子どものことを第一優先にして、おもちゃを作っているうち、マスコミに取り上げられるようになりました。教育崩壊が問題になった1980年代には本を書くことに加えて、あちらこちらに出向き講演をしていました。“子どもの生活文化”について、保護者や教育者に向けて話をしたのです。東大の教育学部で講師として教えていた時もありました。

やはり「子どもの生活文化」ということが、寺内さんにとって一貫したテーマなのですね。

寺内さん:

講演会で、「どういうことが成長期に求められているか?」「教育は何を失ってきたか?」「大人が子どもにしてあげられることはどういうことか?」を説いてきましたが、“幼児教育文化” “地域文化” や “家庭文化” といったものはあんまり新しくなりませんでした。それが果たしていいのか?という疑問がずっとあったのです。
そこで2004年に若い母親たちと「八王子母親研究会」を立ち上げた。そこから、町田、横浜、川崎、大田区・・・と広がり、つい昨年までおおよそ月1回の定例勉強会を続けていました。

今はもう87歳ですから、講演会も、母親研究会もしていません。
でも、現在の「子どもの生活文化」について考えると、家庭教育がおざなりになり、就学前教育を幼稚園・保育園に依存し過ぎていると感じます。今後もそういうことを問う本は書きたいですね。それから、書も書いていきたいです。

* * * * * *

寺内さんが『感性があぶない』という著書の中でおっしゃっている、
「このままの子育て、教育では子どもの感性を保障できなくなる。教育の数値化優先や大人の都合優先の経済優先主義は、遊びの原点の “空想すること” “五感をひらくこと” “ゆったりとした成長” を保障できなくなる。」
という言葉通りのお話でした。

私は今から7年ほど前に、大田区の母親学習研究会に参加し、寺内さんに“てのひらえほん”を見せていただきました。その時のお話は今でも鮮明に覚えています。
今回改めてお話をうかがうことができて、インタビューの最後に寺内さんが「私の感性とあなたの感性が響き合った」と言ってくださいました。とても嬉しく思いました。
寺内さんはこの“感性の響き合い”を子どもと親、子ども同士に伝えたいんだな。と実感しました。

滝さんは、寺内さんのお話を何度か補足しながら聞いていらっしゃいました。そこには、父親の足跡を敬い、誇りに思う心がうかがわれました。
寺内さんのおもちゃ達はもう何十年も前にデザインされたものですが、今見ても全く古びていません。科学の発展、ITの発展で、数値化、確証、など目に見えるものを信じることは容易になりましたが、他方で私達は “感性が響き合う” ということに気づきにくくなっているのかもしれないと思いました。
この先も、寺内さんの貫いてきたこの思いを、多くの人に知ってもらいたいと思いました。

貴重なお時間をいただきまして寺内定夫さん、滝さん、本当にどうもありがとうございました!!

≪≪≪前回のインタビューはこちらから!

橋本 光子
執筆者おもちゃコンサルタント、グッド・トイ選考運営委員会 副委員長
橋本 光子
公民館で社会教育指導員として、赤ちゃんから高齢者までの社会教育を日々、企画、運営、進行しています。また、グッド・トイの選考に携わり、1人でも多くのおもちゃコンサルタントが選考に参加できるような仕組みを考えています。

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